ハウス名作劇場を思い出しながらお読みください
まだ汽車に乗ったことがない人がいるくらいの古いヨーロッパの田舎。
もちろん単線で、日に何本しか通っていない。
そんなのんびりした汽車に、とてもそぐわない少年がいる。
彼の落ち着き無さは、狭い車内隅々まで行き渡っていた。
皆の興味の堰を切ったのは、やはり車掌さんだった。
「なぜそんなに急いでいるのかい?」
少年は、はっと我に帰った顔をし、
車掌の目をじっと見ながらこうつぶやいた。
「ママが・・・ママがもうすぐ・・・うわぁ〜ん」
車掌は、少年の涙腺の堰も切ってしまった。
乗客皆が聞き耳を立てる中、彼は貯まっている気持ちを吐き出した。良く分からないこともあるが、つまり少年の母が危篤で、一刻も早く実家に帰りたいということだった。
「っで、おまえの家はどの辺なのだい?」と車掌。
「○○駅と××駅の丁度中間」と答える少年。
少年の落ち着きのなさは、ここにも理由があった。
汽車に乗りなれていない少年にとって、駅の無い途中で飛び降りることなど、造作でもないことだと思い込んでいた。
しかし走ってみてびっくり!
なんという速さなのだ!
これでは、飛び降りるなんてことは到底できそうもない。
母に会いたい・・・
でも、飛び降りたらボクはどうなるのだろう・・・
迷う少年の気持ちが、この車内のなんとも言えない空気を作っていた。
「おまえ、途中で飛び降りようと思っていただろう?」
車掌に図星を突かれ、少年の顔はますます暗くなる。
ゴトゴトゴト・・・
線路の音だけが、唯一平常心を保っていた。
「そろそろだぞ。用意しろ!」
車掌の言葉の意味を理解できる人はいない。
♪リリリリリリ〜ン
「乗客の皆様にお伝えしたいことがございます。
当汽車はこの先で臨時停車いたします。
少しばかりのお時間と、神への祈りを
この少年の母を思う気持ちにお与えくださいませ。」
そう言うと、胸で十字を切り そっと目を閉じた。
車窓から見える、懐かしい風景のステンドグラス。
礼拝堂の座席には、頭を垂れる信者。
車内に充満していたあの空気は、もぅどこにもない。
キキキキキキ〜ッ グワン グワンッ
きっと少年は間に合うはずだ。
大きく羽を広げた少年を見れば、そう思わない人はいない。
全ての人に“気持ちの余裕”があれば、
そんなに問題になることではないように思うんだけどなぁ。
“余裕”の為に“余裕”を削る
□乗り越し受験生に配慮、新幹線が宇都宮駅に臨時停車 - asahi.com : 社会

